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高松高等裁判所 平成4年(ネ)106号 判決

控訴人

高橋安明

佐々木徹

被控訴人

四国電力株式会社

右代表者代表取締役

山本博

右控訴代理人弁護士

河本重弘

田代健

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴人らの当審で拡張した請求をいずれも棄却する。

三  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  (当審において請求を拡張のうえ、)被控訴人は控訴人らに対し、各金一〇万一〇〇〇円及びこれに対する平成二年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  (二)項につき、仮執行宣言。

2  被控訴人

主文同旨。

二  当事者の主張

次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人らの主張

(一)  被控訴人は、社員株主に対し、被控訴人の第六六回定時株主総会(以下「本件総会」という。)の入場開始時刻を一般株主よりも一週間早く知らせ、本件総会当日も、一般株主が入場受付開始まで被控訴人会社建物正面玄関前路上において風雨と冷気の強い悪天候下で待機していたのに対し、社員株主については通用門から右建物内に入場させて、快適な建物内で待機させ、その入場受付も受付開始の午前八時より前に行った。

被控訴人の右入場開始時刻の通知、入場入口、待機場所、受付時間に関する一般株主と社員株主との差別的取扱は、控訴人らが従前から主張している総会会場内での着席位置に関する差別的取扱とあいまって、株主平等の原則に抵触し、不法行為を構成する。

(二)  請求の拡張

控訴人らは、本件総会会場内の希望する席を確保するため、早朝から右会場建物入口に並ぶべく、その前夜、わざわざ高松市内の寺院で宿泊をし、一人当たり一〇〇〇円の宿泊料を支払った。ところが、被控訴人らの前記株主平等の原則に抵触する不法行為により、控訴人らは希望する席を確保することができず、控訴人らは右宿泊料相当の損害を被った。

よって、控訴人らは被控訴人に対し、各一〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日以後の日である平成二年八月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(三)  被控訴人の主張(二)は争う。

本件総会において原子力発電所に反対する株主(以下「原発反対派株主」という。)が議事進行を妨害するおそれはなかった。

2  被控訴人の主張

(一)  控訴人らの主張(一)及び(二)は争う。

(二)  被控訴人は、控訴人らを含む原発反対派株主が本件総会において議長の指揮命令に従わず、口々に不規則発言を繰り返したり、議長席に詰め寄ったりして議事進行に支障を来すおそれがあったため、これを防ぐべく、社員株主に対し前方の席に着席するよう協力を求めたものである。したがって、被控訴人の行為には違法性がない。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一本訴に関する事実関係の認定については、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由一項前段(四枚目裏三行目まで)及び二項記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四枚目裏末行目の「二四」の前に「一二ないし一五、一六及び一七の各1、2、一八、一九、二〇の1、2、二一、」を同五枚目表一行目の「結果」の次に「、当審における控訴人佐々木徹本人尋問の結果及び弁論の全趣旨」を加える。

2  同枚目表二行目の「原告ら」を「控訴人らを含む原発反対派株主ら」と、同末行目の「者たちからの抗議を受け」を「者数百人ないし数千人から、被控訴人本社を取り囲まれて、鉦、太鼓を打ち鳴らされ、拡声器を用いて大声でシュプレヒコールや怒声で抗議を受け」と、同枚目裏一行目の「占拠されるなどし」を、「占拠され、警察に機動隊の出勤を要請して事態を収拾するなど」と改め、同三、四行目の「利用され」の次に、「株主総会が混乱し」を、同九行目の「危惧感を持った。」の次に「特に、被控訴人が危惧したのは、原発反対派株主が喧騒をもって議事進行を妨害するとともに、議長席や役員席を取り囲んだり、占拠することであった。」を加える。

3  同枚目裏一一行目の「これらの者に株主席前方に着席させ」を「これらの者に対し、事前に、午前八時の受付開始時刻一〇分前に会場入口の受付場所に集合すると共に入場後は株主席前方に着席するよう要請し、もって」と改める。

4  同六枚目表二行目の「このため、前記原告ら」を「本件総会当日は、午前八時前に通用門から社員株主を前記別館に入れ、午前八時の受付開始と同時に本件総会会場に入場させたので、控訴人らを含む原発反対派株主ら」と改め、同九行目の「着席し」の次に「(控訴人高橋は第六列目、同佐々木は第七列目の中央部付近にそれぞれ着席した。)」を加え、同末行目から同枚目裏一行目の「原告らのうち四人が議長から指名を受け、質問したり動議を提出するなどした」を「控訴人らを含む原発反対派株主らは多数回、議長から指名を受け、原発反対の立場から質問をしたり動議を提出するなどしたが、その間、控訴人高橋は一度動議を提出し、同佐々木は一度質問をした」と改める。

二ところで、一般に、株主総会の招集者は、各株主がその権利である質問や動議の提出を円滑にできるように、また、株主総会の議事が円滑に進行するように、会場の設営を行うべき責務があり、この目的のため、株主の受付・入場の方法や会場内での株主の着席位置等を定める権限を有する。したがって、これら株主総会の会場設営に関する事項は、株主総会の招集者の裁量によって決定されることになるが、右目的に反して右裁量権を濫用し、あるいはこれを逸脱して、株主間において公平を失し、合理的な理由のない差別が生じた場合には、それは株主平等の原則に違反し、ときには違法性を帯びるものというべきである。

そこで、右見地に立って、本件をみるに、前記認定事実によれば、被控訴人は従前多数の原発反対派の者たちから大声で抗議を受け、ときには深夜の数時間にわたって社内ビルの一部を占拠され、機動隊の出動を要請せざるを得なかったことがあり、また、他の電力会社においても、株主総会が原発反対派株主の反原発運動によって混乱したことがあり、本件総会前にも、原発反対派株主から被控訴人に対し一〇〇〇項目を超える原発関係の事前質問状が送付される等本件総会についても原発反対派株主による反原発運動に利用の動きが見られたのであるから、本件総会の運営について、原発反対派株主が喧騒をもって議事進行を妨害したり、あるいは、議長席や役員席を取り囲んだり、占拠されたりするおそれが十分予測されたものといわざるを得ない。

そうすると、被控訴人が、社員株主に対し事前に受付開始時刻を知らせ、右受付開始時刻前に通用門から社員株主を前記別館に入れ、午前八時の受付開始と同時に本件総会会場に入場させて、株主席前方に着席させた措置は、株主総会の議事運営を円滑に進行させるためのやむを得ない方策であって、合理的な理由による株主間の差別的取扱であり、株主総会の会場設営に関する裁量権の濫用・逸脱はなかったものというべきである。しかも、被控訴人の右措置にかかわらず、控訴人らは本件総会において、実際に質問ないし動議の提出をしており、その株主権の行使につき実質的な不利益を受けていなかったと認められる。

したがって、本件総会の運営に関する被控訴人の行為には違法性がなく、不法行為を構成しないものというべきである。

三よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの本訴請求は、当審において拡張された分も含め、いずれも理由がないから、本件控訴は理由がなく、これを棄却することとし、控訴人らが当審で拡張した請求はこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 砂山一郎 裁判官 上野利隆 裁判官 一志泰滋)

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